キリシタン大名に囲まれた佐賀

葉隠の諸相 ―キリシタン大名に囲まれた佐賀-     嘉 村 孝

葉隠には「政家様御舅有馬越前守入道仙岩義貞(或は義定)と申し、前名修理大夫晴純と申し候なり。子息左衛門佐義純なり。(後名鎮純)義宜は仙岩の養子波多氏なり。政家公の夫人は仙岩の女なり。」とか、「慶長十九年有馬左衛門大夫日向へ領替仰付けられ候節、有馬此御方御預けに成り候に付て、加番の為多久長門罷越し、十月より十二月迄相勤め罷り在り候。」といった記述があります。

この後者は、有名な幕府外交担当者 本多正純の家来でキリシタンの岡本大八にかかる罪により、有馬晴信が最終的には山梨県まで流されて亡くなったことに関わり、息子直純が島原から日向へ転封された折の話です。キリスト教とは全く関係ないような「葉隠」ですが、そもそも周りはキリシタン大名に囲まれており、大いに関係あり、ということも言えるでしょう。例えば、前者のとおり、政家の妻が有馬から来ていたことが、政家の有馬に対する矛先を鈍らせ、龍造寺隆信の出陣、その沖田畷における敗死につながったとも言えます。

そもそも、鎌倉時代に、源頼朝によって九州地方に領地を与えられた大きな武家勢力としては、武藤氏(現在の横浜市辺りから下った武蔵の藤原氏。大宰の少弐に任ぜられたので少弐を名乗る)、大友氏(小田原の大友郷から下向した一族)、島津氏(現在の厚木市辺りから行った一族)が大勢力ですが、より以前、藤原純友の子孫と称する有馬氏や大村氏、更に源融の子孫と称する松浦氏、そして、三浦能仲の子孫と称して、現在の千葉県夷隅市から長崎野母半島に下向した深堀氏(旧外房大原町の深堀)などなど、長く続いた有力な武士たちがいました。

そんな中、戦国時代に、お米の産地・佐賀で龍造寺隆信が少弐氏を押し退けて大勢力となったことから、元々島原半島全体から藤津郡、杵島郡、彼杵郡を領していた有馬氏と、その有馬氏の縁戚である大村氏、更に大村氏から武雄の後藤氏に養子にやられた後藤貴明などなどが、様々に入り乱れ、戦っていました。

そうした中、耕地が少ない大村氏の純忠は、一五六三年、日本で最初のキリシタン大名となりました。彼はその一年前、彼杵郡の横瀬浦にポルトガル向けの港を作りましたが、そこが焼き討ちに遭うと、長崎港近くの福田浦に移り、更に長崎を開港するということになります。一方、大村純忠の元々の本家であった有馬のほうは、島原半島の最南端・口之津を整備し、東の有馬にセミナリヨ(一五八〇年)、加津佐にコレジヨ(同)を設け、「キリシタン版」を作ったりと、色々な活動をしていました。先年、県人会の郷土訪問でも、これらの故地をめぐったことがあります。

話が前後しますが、一五四九年、フランシスコ・ザビエルが鹿児島に上陸し、その後、平戸、山口、京都などなどで布教したことは有名です。そして、ザビエルは、豊後の府内で二十一歳の大友宗麟に会い、宗麟はすぐにはキリスト教に入信しなかったものの、キリシタンの布教を許し、沢山の宣教師たちが豊後に渡来しました。こうして、当時の九州には博多・大宰府という一つの出入り口だけでなく、平戸、長崎、口之津、更には府内、臼杵、鹿児島などといった多くの港が、西洋に対する複数の出入り口として存在したというわけです。ヨーロッパの地図にも、「BUNGO」などは大きく取り上げられていますし、二十一歳の大友宗麟がザビエルに面会する場面は、現在ドイツのヴァイセンシュタイン城に画像が存在します。また三十年戦争中の一六二〇年、白山の戦いの後、カトリック勢力特にイエズス会はチェコのプラハを占領し、そこにあるカレル橋にはザビエルの像が今もあり、武士(のような)人物が、それを支えています。近くには、フランシスコ・ザビエル大聖堂などなど、日本やアジアとの極めて関わり深い様々な事象が九州からヨーロッパに伝わっていったというわけです。

こうして、キリシタンと交流することにより、キリシタン大名は貴重な兵器などを導入することができ、島津との耳川の戦いで敗戦に追い込まれてしまった大友氏も、有名な国崩しという大砲によりなんとか凌ぐことができたといわれています。

さて、一五八七年の秀吉の禁教令は一種の政教分離の御触れでしたが、江戸時代に入ってからも、布教は許されないものの、貿易は続き、中にはキリシタンでありながら有馬晴信を欺いた岡本大八のような人物も出てきました。これは上記のとおり、藤津郡や杵島郡などが元有馬氏に属していたため、それを返してやるから金を寄越せという一種の詐欺で、それにまんまと乗せられてしまった晴信は、簡単に言えば贈賄罪に問われてしまいました。そして、甲州市大和町にまで流され、最後は切腹を命ぜられるも、キリシタン大名らしく、自殺することを拒否し、首を打ち落とされるという死に方をしたとも言われ、これまたなかなか深いものがあると思います。

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