チベット問題・満蒙独立と川島芳子・武士道

葉隠の諸相 「チベット問題・満蒙独立と川島芳子・武士道」        嘉 村  孝

地震のために少し下火気味ですが、チベットの問題は今も世界でくすぶっています。

ところで、標記の題をつけましたが、このチベット問題に武士道はどうしてつながるか・・・私は大きな関

係があると思っています。

まず、チベット仏教(ラマ教)と満州族とは極めて深い関係にあります。

満州(マンジュ)族の名は、本来文殊菩薩の「文殊」に由来し、仏教を大事にする種族で、歴代王様の奥さ

んはモンゴル族から嫁いできていました。そのような満州族の王様が一六四四年、明の崩壊により中国(清)の皇帝になったとき、皇帝は文殊菩薩の生まれ変わりとしてチベットやモンゴルに対しても君臨することになりました。

その前の明という儒教帝国の時代には、万里の長城の外側は明の勢力の及ばないいわば仏教エリアだったの

ですが、清の時代になって、儒教と仏教とを融合させた清が、その力を万里の長城を遥かに超えたところにまで及ぼすことになったというわけです。

こうしてチベットは清の皇帝に服属し、ダライ・ラマの選定権も中国皇帝が握っていました。ところが、一九一一年、辛亥革命が起きて清が崩壊すると、その皇帝に服属していたチベット、モンゴルは独立を宣言し、互いに国家として認めあい(一九一三年)、ここに両者の独立が重大問題となりました。しかも、清朝の復辟が最重要となり、川島浪速をはじめとする満蒙独立運動が起きます。つまり、旧満州の独立とモンゴルの独立、更にチベットの独立は全て連動しています。しかし、第一次、第二次、そして第三次の満蒙独立運動は、誰が中国の主導権を握るか判明しないあまりの複雑さのために崩壊しました。

それが昭和六年、満州事変が勃発したことによって、清朝の皇帝であった溥儀を迎え、ここに「満州国」が成立します。しかも昭和一〇年には、それまで北満鉄道に権益を持っていたソ連がそれを放棄し、ここにモンゴルはソ連が、満州は日本が、そしてチベットはイギリスが、という一つの枠組みが出来上がったわけです。こうしたことの背景として、昭和七年の満州国建国以来、昭和一〇年くらいまでは概ねそれまでよりも良好な日中関係が続いたという事情があります。

ただし、その後、二二六事件の村中孝次大尉が述べる密輸その他、褒められない日本人の活動が随分行われていたことも間違いなく、彼ら青年将校が二二六事件を起こす一つのきっかけにもなったようです。

そして、この二二六事件がつぶれた後、いわゆる粛軍人事によって佐賀県にも関係深いそれまでの荒木、真崎(甚三郎大将)ら一種の北進派はついえ、中国関内への進出を目論む一派が日本の主導権を握ったことによって情勢は変化しました(このことについては、一般的にほとんど触れられないことが多いのですが、私は幼少時お会いした真崎勝次少将〔大将の弟で当時衆議院議員〕の書かれたものや関係した人々の言からもそう考えています)。

そして昭和一二年、蘆溝橋事件が勃発してからは、川島浪速の養女になっていた清朝粛親王の王女であった川島芳子が松本において、「日本人である前にアジア人でなければならぬ」との趣旨の素晴らしい演説を行い、中国大陸における日本の当時の政策を厳しく批判したようなことになっていきました。粛親王、川島浪速、川島芳子、これらの人は皆武士道に深い関心を持ち、それに関わる歌などを残しています。ちなみに、真崎少将は昭和三〇年代はじめ、彼らの故地長野県松本近辺で再三講演会を行い、文書を残しています。ついでに言うと、小城の中林悟竹さんも、本貫地は松本郊外で、「加助一揆」の資料館に巨大な書を残されています。松本地方と佐賀との関係は極めて深いわけです。

このような川島芳子、荒木、真崎、更にそれにつながる吉田茂、辰巳栄一中将(もちろん佐賀の人で県人会

にも何度もご出席)、近衛文麿公などの人脈を考えていくと、この人たちのいわば発想法には、二つのタイプの武士の生き方の中でも、核において葉隠に近いものを感じます。

そして、このようなことを前提にアジア全体を見てみた場合、モンゴルなど、いわゆる「藩国」には内蒙、外蒙という内外の区別があり、チベット、新彊、苗(ミャオ)族等々も、いわゆる中国文明に熟したところと熟さないところ、即ち、「熟」と「生」の違いがあります。この違いは台湾において顕著に言われたことですが、実はこの日本においても同様のことが言えるのではないかと思っています。わずかな紙面では到底語り尽くせる問題ではありませんが、葉隠のいう「上方風の打ち上りたる武士道」は熟の分野、鎌倉や葉隠の武士道は生の分野における武士道といってよいのではないかと思います。

いずれにしても我々はチベットを遠いところの話しと見るのではなく、実は全てつながる話しであるという視点を持つことが大事ではないかと思います。

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