鎌倉の国際性

先日、久しぶりに鎌倉に行ってきました。なので、このテーマは以前も書きましたがちょっと一言。

まず、私にとっての鎌倉時代とは何かですが、もちろん法律が「本籍」ですから『御成敗式目』のことが強く頭の中にありますけれども、鎌倉の特徴をズバリ言い当てているのは、大川周明の『日本二千六百年史』の中の言葉ではないかと思います。

「然るに爛熟せる京都文明が生みたる此の堕落腐敗を刷新して、日本国を其の道徳的破産より救えるものは、実に武士道其のものであった。例えば、之を文学に見よ。平安朝時代の文学は、殆んど総てが男女の恋物語か、然らずんば風流談・懐舊談の類であった。そは典雅なる、而して享楽を事とする時代の、縦ままなる尋常の経緯を、繊細に描き出だすことを主眼として居た。 然るに鎌倉時代の文学は、武士の節義を写すことを主眼とせる物語か。然らずんば教訓談の類いである。

因より源平盛衰記にも恋愛があり、平家物語にも恋愛はある。さり乍ら之を取り扱う態度に置いて、両者は全然趣きを異にする。

平安朝時代の文学に於いては、恋愛は人生の最大関心事とせられて居るが、 鎌倉文学に現れたる恋愛は、更に偉大なるものの為に犠牲とせられたる悲壮なる恋愛であった。そは好んで義理を描いた。義理の為に捨てねばならぬ人情、人情に打ち克たねばならぬ義理を、涙を伴える力強さを以て描いて居る。 彼等の説ける此の悲壮にして荘厳なる道徳は、後に武士道という偉大なる道徳体系に発達し、爾来七百年の間、日本国民の道徳的生活の中心生命となった」と。時代区分に私との若干の相違はありますが、正にそのとおりでしょう。

もちろん大川は昭和6年の三月事件、十月事件の首謀者であり、とんでもない人だとは思うものの、天皇の大権を無視する行為を行おうとしたということは、それだけ本当のことが「わかっていた」ということかもしれません。ですから大川は、この『日本二千六百年史』が不敬に問われて、一部を書き改めさせられたということもありました。

そこで、そんな鎌倉美術の特徴ということで、まず代表的な大仏様。この造り方自体がヨーロッパの巨大建築と同様な手法によっていることは、何年か前の発掘でも明らかにされたことです。その頭部の螺髪の積み上げ方、白毫の位置などは南宋の様式に非常に近いと言えます。

それだけで鎌倉の国際性は明らかですが、たくさんの仏像は、法衣垂下と言って衣が下にだらーっと垂れる形をしています。座っている像の場合は垂れた衣は両側に伸びてしまいます。これも南宋式。

あるいは鎌倉国宝館にある有名な韋駄天立像、覚園寺の阿弥陀如来坐像については土紋様式が有名です。これも私自身の経験から言うと、何十年か前の上海・龍華寺で、正に工事のおじさんが一生懸命チョコレートのような粘土を貼り付けているのを見ました。今現在の大陸の話なわけですね。

彫刻はとにかくリアルです。国宝館にある元は円応寺の初江王像も。なのに、同じ国宝館にある江戸時代の閻魔様はリアルさが薄れて、まるで招き猫の体となっています。もちろん東京のあちこちにある閻魔様も同じです。そこに私は精神の弛緩を見ると言っては言い過ぎでしょうか。

さらに石塔で考えますと、奈良国立博物館で行われた寧波(ニンポー)の展覧会の表紙にある銅塔。これは唐から宋が始まる間の五代十国の頃、上海の近くにあった呉越国(900年代)の王・銭弘俶がインドのアショカ王に倣って8万4千の塔を作った。それが日本に5、6個はやって来た。それがその表紙ですが、多分そこから派生したと言われるのが宝篋印塔です。最も古いものは奈良や京都にありますが、その馬の耳に例えられる四隅がピンと立っているのが鎌倉です(元気がよい)。

そして、中国の舟山列島にある普陀山には同じ型の巨大なものがあって、そことの関係が面白い。日本で、四隅の「ピン」がだんだん大きくなったり、真ん中の九輪が巨大になったり、というのは国際的な影響なのではないかということが何年も前ですが、国学院大学のシンポジウムで言われました。ですから、鎌倉はこの面でも国際的です。

もちろん、建長寺、円覚寺を開いた人たちも中国。例えば蘭溪道隆は今の重慶の辺りからやってきたわけで、鎌倉仏教というと浙江省の天童寺とか阿育王寺あたりから来てますよ、というのは日本の歴史でも習うわけですが、そういった国際性が色濃く残る所が鎌倉だということでしょう。

さて、そのような国際性の中から、逆に言うと、正に「日本的」な関東の慣習に根ざした『御成敗式目』が誕生、それまでは『律令』という中国法だったのが、「道理」を本に具体的妥当性を追求する法律が生まれたり、あるいは親鸞の『教行信証』が茨城県の稲田の草庵(笠間市)で書き始められたり、鎌倉時代が幅広い知識と教養の時代であり、巨大なものは作らなくても精神において深かったということが言えるのではないかと思いますし、大川の指摘が見事に当たっているように思います。

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